第1回「SOS」
「はぁ~、今日もやっとめんどくさい授業が終わった・・・。」
チャイムが鳴るとともに、教室中からため息が聞こえてくる。
彼の名前は榊原類。ごく普通のどこにでもいる高校生。
「大地!今日も俺、部活休むわ。」
「榊原先輩、今日もですか?」
「悪い、ちょっと塾が立て続けに入っててさ・・・。」
「わかりました。橘にも伝えておきます。」
「ありがとう。」
彼は今日も山奥の学校から颯爽と自転車を漕いでいた。
いつもと変わらない景色、いつもと変わらない感情、
何もかもがいつも通り動いていて、とてもつまらなく感じていた。
時に立ち漕ぎなどを交えながら自宅へと急ぐ。
「やっと家か・・・。」
ここまでの道のりは片道30分。全速力で飛ばしているのにも関わらずだ。
帰りは下り坂だからまだいいけど、行きは登りだからもっとしんどい。
下手したら今の倍以上かかってるかもしれない。
「ただいま!」
「今日はテストが帰ってきてるでしょう?ほら、早く見せなさい。」
もちろん、成績は・・・あなたのご想像にお任せします。
「類!あなたはどうしてこんな点数しか取れないの?お母さん、悲しいわ!!」
「いや、でも・・・。」
「ちゃんと反省しなさい!うちは由緒正しき家系なのよ。
こんな低い点数、亡くなったお爺ちゃんに見せられないじゃない!!」
そう、榊原類の家系は昔から日本では有名な家系だった。
ごく普通の学力しかない類にも大きなプレッシャーがかかっているのである。
母親は典型的な教育ママ、父親は典型的な会社の社長。
まあ、よくある日本の有名な一家ってところ。
「このワークが終わるまではおやつ無し!わかったわね?」
「うん。」
彼は元々とても明るい少年だったが、
親の影響を受けて徐々に暗い人間に変化していった。
次第に「二次元」と呼ばれる世界に浸りこみ、
テストの点数はどんどん下落。
そして、高校2年生の今に至るというわけだ。
「面倒くさいなー。どうして、俺がこんなことをしなきゃいけないんだろう?」
実は、彼の点数はあなたの想像よりも悪くない。
平均点よりも随分と上だし、一部の科目では学年でもトップ10に入る。
どうして彼は母親に叱られなければならないのだろうか?
「類はあまりにも点数が低すぎる。日本史が80点しかなかっただって?
それくらいの点しか取れないならもう一度教育しなおす必要があるな。」
「ええ、そうですね。」
要するに・・・両親の自己満足とつまらないプライドが原因というわけだ。
音楽は・・・「クラシック」しか聴いたことがない。
読書は・・・ケータイ小説?そもそも、ケータイってなんですか?
好きな食べ物は・・・「白トリュフのリゾット」。
一般的な「大富豪」と呼ばれるほどお金を持っている家庭ではないのだが、
食べ物などに関しては完全に「大富豪」と呼んでもいい生活をしている。
主に両親の「常に一流のモノに触れさせる。」という方針があるせい。
週6で塾に通い、寝る時間以外はほぼ勉強。
そんな毎日が続いている。
今日も、母親から与えられたワークを淡々とこなす。
塾に行っても父親が設定したカリキュラムに則って授業が行われる。
両親によってがんじがらめにされた生活は決していいものではなかった。
「俺はずっとこんな生活をしなければいけないのかな?」
学校でも結構女の子に人気のある彼だが、
主にその中味のせいですぐに周囲の目は冷めてしまう。
だけど、それは彼のせいなんかじゃない。
彼は家族のぬくもりすら知らずに今日も深夜までテキストに向かい続ける。
「俺は、ずっとこれからも真冬のような日々を過ごさなければいけないのかな?」
力なき心の叫びが、部屋に空しく響き渡った。
彼に春はやってくるのだろうか・・・
To be Continued...
ショートストーリー『Tell ~私が恋をしてはいけないんですか?~』
第1回「SOS」
0コメント